『野良猫の掟』/東雲 李葉
 
人に懐くな、信じるな。そう言い聞かせて生きてきたんだろう。
細い両目はいつも暗い底を見透かすように光っていた。
何も信じずすべてを疑い、誰も知らない所で戦い続け、
顔色一つ変えないで噛み付く鼠を食ってきたという。
寂しくないかと不安に問えば、そんなものは知らないと。
要らないものは見えない、と深く深く僕を見つめる。
そっと頭に乗せた右手を容易く受け入れた君だったから、
僕なら家族になれるのだと思い違いをしてしまった。
何度目かの二人きり。君は呟くように別れを告げた。
僕が見えなくなりそうだと悪戯な笑みを浮かべながら。
君が僕にだけくれたさよならをこれからどうやって咀嚼していこう
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