ねこせん/山田せばすちゃん
 
それは子猫にしては無理のない話で
信号を見ることも横断歩道を渡ることも
所詮はできはしない相談だったかもしれない
ただその軽やかな身のこなしで
何度かは成功してきた国道の横断
今朝はほんのちょっとした躊躇が命取りになって
子猫は砂利を満載にしたトラックに轢かれてしまった

その軽やかな身のこなしを掌った脳髄ごと
可憐な頭蓋骨はくしゃっと砕け
か細い肋骨は肺ごとぽきぽきとつぶれてしまった
動かなくなった子猫の上を
避けようもなく宅急便のトラックが通る
あるかなきかの内臓を道路にはみださせて
通勤途中の乗用車が踏みにじる
尻尾の先から背中まで地面に埋め込むかのように
保育園児で満員のバスがゆっくりと押しつぶしにかかる
そのとき最後に子猫の体から一筋の魂が立ち上るのを
保育園バスの後ろから来たホンダカブのおじいさんが
見たような、見なかったような

残った血の跡が埃にまみれて消えかかるころ
そこにはとらじまのねこのせんべい
もう三味線にもできないくらいにぼろぼろになって
電柱に止まったカラスも見向きもしなくなった
ねこせんが一枚

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