(無題)/キキ
午後、雪がちらついたので
積もらないと知りながら
見知らぬ人の痛みと
繋がりはじめる
指先ならばよかったけれど
溶け合うようになじんで
本当の痛みなど
知りもしないのに
まるで火を潜り抜けて
たどり着いたかのように
駅にすべりこみ
雪の日にはどうして泣きたくなるのか
考える時間がない
傘を差したかった
調和を乱す赤い縁取りの
自分のためにも
誰かのためにも
そんな簡単に泣いてしまうのはよくないこと
有楽町の駅から臨む皇居の空には
一瞬の空白があり
美しい女たちの思念が
隙間を埋めるのに余念がない
誰かがわたしのために
泣いてくれることを
夢見るのも悪いこと?
かもしれない
結局、女たちは色とりどりで
どんな傘も一度失くしたら
二度と見つからないだろう
いつかのとき
愛しいひとの手を握って
傘を渡して
そのまま別れて二度と会わない
出会ったときが一番哀しかった
感じ始める前の今なら
きっとそんな風にも言える
わたしは標にはなれない
溶けない雪が指先に落ちる
痛いことはすべてすべて夢だ
誰に告げることもなく
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