友人/小川 葉
かつて古きよき友人がいた
というような
そんな時代でもないらしい
人は大きなしくみに組み込まれ
わたしとあなたとの
小さな友情もまた
しくみに違いはなかったけど
この人となら
いい友人になれそうだと
思っては過ぎてゆく
時は誰をも待ってはくれない
地下道を
ひとりで歩いていた
景色はなかった
見渡せば田んぼばかりの道を
かつて歩きながら
同じようなことを思っていた
けれども
山があり
川があり
一緒に歩いてくれた
友人がそこにいてくれていたではないか
古きよき友人がいた
という時代ではないらしいけれど
わたしにもまだ
古きよき友人があるならば
ケータイでその友人に
電話するのを躊躇してしまう
この気持ちは何だろう
できることならまた
あの道を歩きたい
歩きながら話してみたいから
そんな時代でもないらしい
わたしは少しだけ明るい気持ちになって
地下道を歩いていた
まぶしいあの日の光が
たった一瞬だけ見えただけなのに
戻る 編 削 Point(5)