月花のためのチェロ独奏曲/瀬崎 虎彦
 
捩じった螺旋の肉体
白々と夜薔薇を広げ

遠方より 船が近づいてくる

颯爽とベッドから抜け出して、
夜中の台所に立つ
喉を鳴らして水を飲む
女(金属的な恥毛 踝の中の胡桃)

ああ この肉体では軽すぎる
息を殺し爪先立って歩く
ベリリウムよりも比重の軽い肉

英国の雨の多い田園風景の中に
スコーンとティーポットが
白く際立って見える

水の匂いが 幻惑された時計の文字盤に反射している

岬から灯台は光を船に撃ちこむ
壊れて吐き出される 堕胎された赤子の船に

雨を含んだ風がガラスに爪を立てる

戻る   Point(2)