記憶はデリート不可能だった/北村 守通
 
拳には残っている
殴りつけてしまった
感触
顎の骨と
サンドイッチしてしまった
頬肉の
感触
殴りつけられた
痛みよりも
殴りつけてしまった
感触が
拳にまとわりついて
まとわりついて
掻き毟っても
消えなくて
一生
まとわりつかれるのだろう
姿がない
薬もない
治療法もない

紅潮して
強張って
引きつった唇から
吐き出された言葉の数々が
なんであったのかは
記憶に無かったが
聞き取ることを
忘れていたが
怒りとするしかなかった
その傷口の
剥ぎ取ってしまった
かさぶたの下から現われた
薄い桃色に染まった
瞳の色を
なんで忘れ
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