湯舟/小川 葉
 
 
 
湯舟に浸かると
そこは港
ゆっくり岸を離れてゆく

目を瞑れば見えてくる
この世にひとつだけの海を
満天の星々を頼りに
湯舟はどこまでも行く

扉が開く音がして
お風呂場に
息子が入って来たので
港に帰ると
お父さん
どこ行ってたの
と聞かれて困ってしまう

夜更け
妻の湯舟が港を発つ
遠くから
潮騒の音が聞こえている
 
 
戻る   Point(9)