世界の秘密/五十里 久図
世界の秘密
そんなものが本当にあるのかは分からないけれど
それはあるとき確かに僕を迷わせ、惑わせ、道を踏み外させた
陽に照らされて虹色に染まる冬の雲や、
轟々と響く生温い春の風、
ひぐらしの声と静寂に満たされた夏の夕暮れ、
少しずつ肌寒さを増す秋の日の青空
それら全ての中に、世界の秘密につながる何かがあると
そう信じて疑わなかった
結局その何かは
見つかったようで見つからなかったようで
もはやよく分からないけれど
あの日のあのざわめき
この世の秘密を前にしたと思ったときの
あの不可解な心の波立ちが
僕を今のこの場所へと連れ去ったのだ
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