わたしの時代/小川 葉
 

生きてもらいたい
その幸せを稀有な喜びとして
わたしの人生を思い出してもいい
それが自由なのだと
人として確かめてもらいたい

母親にしか似てなかった
君の顔が
歳月を重ねるごとに
父親のわたしにも似はじめている
そんな親になった
わたしの喜びをいつかわかってほしい

大きな病気はしたことはないけれど
近いうちに病院に行かなければならない
何でもないとは思うけど
遺書みたいになってしまった
この詩がただの詩であることを
わたし自身
こんなふうに願う時は
生まれておそらくはじめてのことだ

はじめて死について考えたのも
風邪をひいて病院の待合室で壁を見ていた
七歳の頃のことだった

来週早々病院に行って
話を聞いてきます
病院の待合室の
壁を見に行ってきます

わたしの時代は
まだ少し続かなければならない
この子が大人になるその日までに
両親を見送るその日までに
 
 
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