遺影/オイタル
祭壇の遺影の陰で
その人がまんじゅうを食べている
もぐもぐ
甘いものは好きじゃなかったんだけど
ずっと食べていなかったからねと
老いた未亡人の言葉が涙を誘う
導師の読経は熱を帯び
喪主の嗚咽は風を呼び
少しずつ闇の前へ崩れていった
そのとき祭壇の遺影の陰で
その人がひとしきりむせ返る
うろたえる目は水を探すが
あいにく手近に見つからず
そのまましばらく咳き込むと
参会者は白茶けて数珠を握りなおす
白菊は麓から祭壇の頂まで
左右に緩やかなS字カーブを描いて坂を作り
その人はゆっくりと
花の闇を上った
人々の思いもまた
ゆっくりと上ったのだが
背中を向けて指先
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