春のゾンビ/亜樹
 
冷え切った水が緩み
地球の表面に蟲が蠢きだす
そんな時
不意に腐臭がする
今年もまた
春が甦ってしまった。



通勤路の途中のうち棄てられた畑に
めい一杯オオイヌノフグリは茂る
あの畑の持ち主は
昨年の夏に死んだ
娘夫婦は町へ出て
もう誰もあの畑を手入れするものがいないのだ
それを良いことに
あの小さな青い花は
好き勝手に手足を伸ばした
その傲慢さにイラついて
来しな帰りしなに
ぶちぶちちぎって歩くのだけど
次の日にはもう同じように生えそろって
我が物顔で咲き誇っている
青い花が同じ顔して
じっとこちらを見つめるのだ


ああ!
また今年も春が甦ってしまった!
冷たく凍った土を押しのけ
新芽は淡く山を彩り
電線はだらしなく緩む
そんな時
きつい腐臭がする
冬の間押し込められた
あつかましい性の匂いだ
そんな時
春のゾンビが真後ろにいる
春のゾンビが真後ろにいる
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