井ノ中ノ蛙/亜樹
「海に行ったら蛙は死ぬんだよ」と
彼女は泣いた
電車の到着まであと五分
彼女の目からほろほろと
零れる真水が愛おしい
行こうか行くまいか
行こうか行くまいか
行こうか行くまいか
ああ、やっぱり行こう
僕は深い井戸の底から
這い上がったアマガエルで
それだけでもう
何だってできると思った
空が青くて雲は白くて
それだけでもう
何処にだって行けると思ってた
「鱗もないのに泳げるものか」と
魚に笑われ
それでも精一杯やってきたつもりだった
空からしとしと雨が降る
故郷の真水が懐かしい
{引用=帰ろうかよそうか
帰ろ
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