彼は空を飛びたかった/亜久津歩
 

麻酔の切れた
風見鶏は
錆びついた羽で
取り戻したくて
逆回りを始める
けれど
優秀な風見鶏は
一度たりとも
選択肢を誤ったことは
なかったので
わからなかった
西なら西を
北東なら北東を
吹雪でも月蝕でも
正しいことを
正しいと思うことを
繰り返してきた
小鳥たちの囀(さえず)りに
四季薫る風に聴き惚れながら
信じれば夢は叶うと
少しずつ近づいていると
軋む足を励ましながら

いくら回ってもとどかない空を仰いで。

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