時間/まんぼう
大事な忘れ物を
取りに帰って
きます
と
大声で
別離を
告げて
走り出しても
間に合うのだろうか
待っていてくれる
だろうか
乾いた路地をぬけ
白い雲のながれる
神々の国へ
砂に洗われ
かすれた
光は
白々と骨のように
冬の月のように
さらさらと
ヨシキリの舌のうえにも
過去と感ずる方向から
聞こえてくる
きしむ音
不在
空ろなひばりの巣
捨てられた
硬い靴
不意に
旅人とよばれ
別れを告げもせず
おとずれた時
を
信じて
旅立ったまま
未だ帰り着かない
不死なる谷神の棲む
川の源の源
地下水脈の湧き出るところ
生い茂るシダの葉に
灰のように
時間が
降り積む
処
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