記憶/ピアス/yuri.
 

霧雨が舞っている。交差点には、今日も遅れずに午後四時がやってくる。

位相差。彼女の視野は位相差によって構成される。
赤信号と街灯、昨日の夢。混在するいくつもの現実と、次々に昇華する記憶。記憶のぬけがらはとてもかたい。生来の輪郭よりはるかに、かたい。霧雨にも霞まず、決して消えない。
しかし、ちいさたオレンジがことり、と当たると、さらさらと崩れてしまう。そうして境界は失われる。


ピアスの穴はみっつ空いている。左にふたつ、右にひとつ。
そこから覗いて見えるせかいは、ひどく正確な球形をしている。

彼は言う。きみの視野や肩の線、ピアスの位置。そこはかとなく、流れているようだ。


霧雨は止まない。横断歩道の黒白のすきまに、またひとつ、せかいのほころびが生まれる。
そうしてそこからつながる過去は、ピアスの穴の向こうがわで、ひそやかに呼吸を繰り返している。







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