黒猫の航路図/夏嶋 真子
 


わたしの心はガタガタ震えました。
逃げ出してしまいたいのに
その瞳の色をどうしても知りたくて
体は前へと進みます。


そんなわたしを気にも留めず
猫はやはり背を向けたまま、
灰色の上に横たわりました。
色のない世界の西風羽ばたく毛並みに見とれて
ただ立ちつくすわたしに
気高い一瞥。



振り返った黒猫には顔がないのです。




黒猫はむき出しの骨の上に、美しい夜をまとっていました。


わたしの孤独が瞬いて
融点をふりほどき
青空の出口に注がれると
黒猫は太陽を悠々と
飲み込み



頭上で
真昼の星が輝きはじめたのを合図に
ポケットの中で
小さく折りたたまれていた次元は
自動展開され


航路図になったのです。




「夜ヲワタレ。」




戻る   Point(9)