抹殺されるもの、若しくは現れないことの功罪−「存在の彼方へ」を読んでみる17/もぐもぐ
 
なのであるとか、私たちはついついそういった考えに陥る。考えたことが思うがままになるというような若者の錯覚も同じである。けれども言葉は思考である以前に物体である。紙を作り、インクを作り、印刷をし、頒布する、そうした膨大な労力のプロセスを経た後でなければ、「言葉」は言葉として成立しない。腹筋を活動させ、喉を震わせ、鼓膜を震わせ、そうした物質の過程を経た後でなければ、「言葉」は言葉として成立しない。これらのプロセスは、「言葉」について考える際往々にして「省略」される。しかし、このプロセスの中にどれだけのものが横たわっているかは、それがなければ言葉は全く成り立たないという事実だけからでも明白である。

[次のページ]
戻る   Point(1)