幽霊の心地/亜樹
 
と、どうなるんですか。私の目は」
「見えなくなるよ」
まるで明日の天気は雨になりますと告げる気象予報士のような声だった。
先日の定期健診で、就職してからというものの、留まることなく下がる視力に怯え、尋ねた私に、医者はいともあっさりそういった。
「こう、テレビの電源が落ちるみたいに、プツン!とね。視神経が諦めちゃうんだ。『見る』ということをね」
だから、あんまり目を使わないようにね、と医者は言った。
そんなのは無理だと思った。
けれど、ぐっと我慢して私は頷いた。
そんな私に、更に重ねて彼はこう言った。
「ああ、それと。ストレスもあんまりためないほうがいいよ?」
そんなのは無理だと、今度は口に出して私は言った。

八月に雪が降る。
真っ白な砂嵐。
行き交う人の群れで、一人私は暗がりを探す。
逆走する。立ち止まる。さまよう。うずくまる。
そうして、こらえきれずに、目を閉じる。
自分にしか見えないものに、怯え、目を閉じる、その瞬間。

不意に幽霊の心地がした。
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