鰈/小川 葉
 
 
鰈を煮る
味を染みこませるため
クッキングペーパーを被せると
白い肌や
薄黒い鰭や
卵の赤い色が透けて見える

顔に布を被せられた
祖父の顔にも
同じ色が透けて見えていた

休日出勤すれば
出勤してる人も
してない人も
同じように懐かしくて
仕事を終えて
電話をかけると
必ず息子が出るから
涙が溢れてきて
声がひとつも出なかった

踏切で立ち止まれば
玩具の列車が過ぎてゆく
ここがつながってるの
と説明してくれる
わたしのいない家で
息子が遊んでるのだろう
列車を見送ると
わたしはまた
歩き始めることができる

今夜のおかずは
思ったとおり
鰈の煮付けだった
家にも思ったとおり
わたしと妻の他に息子がいて
ここがつながってるの
と説明してくれる

祖父の写真を見ると
鰈も海の底にいて
ほとんど砂と
見分けがつかない
 
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