地下鉄と風/小池房枝
 
ずつの風が
一日にどれだけ風を立てても
結局は上りと下り
均されてしまうものかもしれないけれど

地下に
地下鉄由来の
恒常風のようなものが生まれていて
地下中を
吹き巡っていたりはしないか
  
*地下の風、或いは凪
駅は終日明るい
駅と駅の間は終日暗い
けれども朝晩のラッシュやら何やら
地下には地下の
サーカディアンリズムがある

昼間はノイズが多すぎる
ヒトも
行き来する電車もノイズだ

終電と始発の
狭間の時間にだけ吹くような
地衡風はあるのだろうか

或いはその時間
地下は初めて凪ぐのだろうか

ホームの端から
暗がりにささやきかければ
木霊が返ってくるような
そんな時間に
  
*歌
水道管は歌った
地下鉄も歌えよ

深夜から
夜明け前にかけて
一日を走りとおした
数多那由多の車両が眠る頃

遙かに
網の目を広げる地下の空洞は全て
通う風だけを声にして
自分自身を歌えよ
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