月の輪郭/砂
帰るところがないので
人を殺してきた君と二人で
月のない夜に 逃げた
君の瞳の中を悲しげに
放し飼いにされた電子ペットが歩く
気が狂いそうなほど優しい君が
気が狂いそうなほど哀れに見えるから
僕は君の手をずっと握り締めていた
君の指先があんまり冷たいので
僕は何度も帰ろう、と言いかけたけれど
君が夜を吸い込んでは咳き込むので
その度に僕は何も言えなくなり
黙りこくったまま君と歩いていた
自分の体を食べてしまった月が
わずかな輪郭だけを引きずり
びっこを引きながら夜空を歩いていた
高層アパートの階段の踊り場で
行き止まりの君の足先に
触れた瞬間に夜風が銀色に変わるので
君は人を殺したことが忘れられない
地上二十メートルの階段の踊り場で
立ち止まる僕に問いかけた
永遠を信じられない僕はもう
君の手に入れたものが見えないから
強く握り締めていた君の手を離したとき
空から月の輪郭が墜ちて
二人の背後で砕け散る音がした
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