ノエルの夜に/前澤 薫
 
 アロマキャンドルの
 蝋が尽きそうな炎を
 ただひたすら眺めている。

 ノエルの夜。
 火を少し怖がりつつ、
 キャンドルを掌で包み込む。

 匂いに鼻を啜りながら、思う。
 やはり時とともに
 火は尽きるものね。
 歳末、つけ始めたキャンドルなのに。
 あっという間のこと。

 鬱は一時、
 アロマキャンドルの
 甘い香りとともに
 消えたと思ったのに。

 やはり火は尽きて、
 私の神経はいよよ研ぎ澄まされる。

 ふと
 人の気配感じ。
 でも気のせいね。

 妄想。
 儚い炎のごとく、
 ああ消えていったあの人は
 幻の姿となり、現われたのね。

 キャンドルもあなたも
 そして私もいつかは消えゆく。

 でも、ずっと繰り返し聴いていた
 アヴェマリアの響きのごとく、
 私とアロマ、私とあなたが交流した
 あの芳(かぐわ)しい刹那に胸を震わしているの。
戻る   Point(1)