とおい水/小川 葉
 
ころに
お給仕のおばさんが
一杯の水を運んできた

そう言えば
たかのり君が焼かれる時も
かなしみのあまり
水をあげることもできないほど
たかのり君の母さんは
泣いてばかりだった

けど、たしか
あの事故で
母さんも亡くなったはずだ
どうしてたかのり君の葬儀に
彼の母さんを見ていた
記憶があるのだろう

わたしは生姜焼き定食を食べ終え
コップの中で
一杯の水になってしまった
たかのり君の母さんを飲み干した

七百五十円を支払った
あの母子が
この世界にいないことだけが
確かなことだった
 
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