とおい水/小川 葉
 
 
たかのり君
と呼んでしまった
生姜焼き定食のことを

もちろん
たかのり君が
生姜焼き定食であるはずはなく
けれども
一度そう呼んでしまえば
そのようにも思えてきて
こんがりと焼きあがった生姜焼きは
あの夏休みの良く焼けた
たかのり君の肌の色のような気がして
艶のある白いごはんは
真っ黒いたかのり君の口元に光る
歯のように見えて
漬物はいつも柴漬けに決まっていて
ごはんならわかるけれども
味噌汁だけがおかわり自由である
そういうへんなところも
たかのり君そっくりだった

お冷やお待たせしました
わたしがたかのり君を
ほとんど食べ終えそうなところ
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