老いたランナー/非在の虹
 
丘を走る老いたランナーの濡れた額
君は見たことがあるか
皺だらけの手に
まとわりつく子どもの手
を払いのけ
上手く駆けられるだろうか
疑問は
ランナーの背後に残されるのだ
最後に拍手
こだまする
丘に並んだ人々の拍手
聞こえるか
同心円上を走る
その他のランナー
中心点で鳴る
梵鐘
ランナーは
永遠の堂々巡りを
廻る
しかない
顎を大きく天井に向け
ベッドに横たわる
病妻は
彼のショートパンツで汗をぬぐう
梵鐘は
夕方に
彼女がつく
落花する夕方に
走り去った老いたランナーよ
風は優しいか
例えば
風の一吹きを
その皺は吸収してしまう
落雷が過去を断ち切れば
紙ふぶきが
ひとり鐘をつく
さみしい妻の上に降る
背後に走る者が
チラリと見えた
[グループ]
戻る   Point(2)