メールについたほこり/前澤 薫
 
 ほこりをかぶったA4の紙に
 メールの文章が綴られている。
 もう十年も前のもので
 「たーいへんそーう」
 と書かれている。
 同じ所を繰り返し
 何度も読んでいる。
 当時のことを蒸し返すこともせずに。
 どこか記憶がぷつりと切れている。
 駅のホームで待ち合わせしたとか
 よく行っていた居酒屋の光景とかは
 思い浮かぶのだが。
 その時の思いは冷めたように
 ここにあらずだ。
 カモミールと安定剤が
 きれいさっぱり感情を
 削いでいる。
 もう夢なのか馬鹿なのか
 支離滅裂なのか
 文字が浮ついて踊っている。
 「そんな自分が悲しい」
 だなんて、よく書けたものだと
 自分で自分をあざけてみる。
 もうあちら側の世界になって、
 文字は幻のように見えてくる。
 だから紙をびりびりに破ることにした。
 ほこりがさらさら
 くしゃみが出るんじゃないかと思うくらいに
 舞い散る。
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