美術の先生は大きなキャンバスに描けばいいと言ったんだ/虹村 凌
終電を逃したサラリーマンが
「人生お先真っ暗だ」っつーから
「修正液で直せるし書き込めるじゃねぇか」ったら
鼻で笑って寝ちまいやがった
仕方なしにイヤフォンで音楽聞いてたら
いつの間にか起きてたそいつが
耳からイヤフォンを引き抜いて
「わかってんじゃねぇか」とだけ言ってまた眠った
大きな真っ白いキャンバスを目の前にして
何を描いていいのかわからなくなって
ちょろっとだけ線を描いてみたら
酷く滑稽な気分になって
どんどん線を引いていって
気付いたらキャンバスが滅茶苦茶になってて
白い絵の具も無くなってて
もうどうしようもなくなって
真っ白なスーツを着て
カレーうどん喰いに行ったんだぜ
始発が出る前にサラリーマンは
俺のスーツをちょっとだけ見て笑った
乗車券を無くした俺は彼と一緒に駅を出る事が出来なかった
家に帰る事が出来たら
あのキャンバスは捨てて
何処かに捨てられたドアにでも何か描こうと思う
カレーの染みがついた真っ白いスーツを着たまま
戻る 編 削 Point(3)