船/小川 葉
 
う何も言わなかった

それから
妹とお母さんと
食堂で晩御飯をを食べた
お父さんは?
お父さんのぶんは?
とわたしがたずねると
また船が揺れて
妹とお母さんも船みたいになるので
わたしはもう二度と
何も言わないことにした

何も言えなくなるほどに
わたしは故郷を離れていた
お父さんが
船になったなんて
何かの冗談かもしれないけど
ほんとうのような気もしていた

あんなに仲良く
家族みたいにしていたのに
それは昔のこと
わたしたちはいつしか
わたしだけになって
船を見えなくなるまで見送っていた
なつかしい家が見える
その岸壁から
いつまでも
いつまでも手を振っていた

お父さん
と呼びかけると
やさしい汽笛の音がした
いつまでもいつまでも
やさしいお父さんの
声がしていた
 
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