なにも。/Anonymous
何もなかった。
植物も動物も
なにも。
風も匂いも
なにも。
時間も方角も
なにも。
そこには砂しかなかった。
砂は生命に降り積もり
砂は時間を覆い隠した。
すべてを。
太陽の姿は見えず、
シンボリックな雄々しい中央集権よりも
淫猥な灼熱という密告者だらけの傀儡政権を樹立させていた。
砂は起源の象徴か
砂は終末の暗示か
あの人は砂の丘に佇んでいた。
瞬間
僕はあの人と目が合ったと。
だがしかし、
その視線は僕を貫いてさえいなかった。
その瞳の角度は
まるで
月と結びついているかのようだった。
その瞳の冷たさ
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