なにも。/Anonymous
 
何もなかった。

植物も動物も
なにも。
風も匂いも
なにも。
時間も方角も
なにも。

そこには砂しかなかった。
砂は生命に降り積もり
砂は時間を覆い隠した。

すべてを。

太陽の姿は見えず、
シンボリックな雄々しい中央集権よりも
淫猥な灼熱という密告者だらけの傀儡政権を樹立させていた。

砂は起源の象徴か
砂は終末の暗示か

あの人は砂の丘に佇んでいた。

瞬間

僕はあの人と目が合ったと。

だがしかし、

その視線は僕を貫いてさえいなかった。

その瞳の角度は
まるで
月と結びついているかのようだった。
その瞳の冷たさ
[次のページ]
戻る   Point(0)