十二月の或る日の点描/前澤 薫
ずっと白壁にできたコーヒーのしみを見つめている。
目まぐるしく動く世界を見ていた昨年末と較べたら、なんとひっそりとした師走なんだろう。
あの時、オフィスのエントランスにはクリスマスツリーが飾られていた。
外は国道沿いで、ひっきりなしに車やトラックが通り、寒風により一層引き締まったような印象を与えていた。
虚飾だったのかもしれないが、すべてが輝いていた。
朝の山手線。ヘッドホンで恋愛ソングを聴きながら、いつもの恵比寿駅前の坂を眺めていた。
夜、行きつけのバーで、色白で細身の大学院生に恋をし、思いを馳せたこともあった。
ケータイの画面に目を移す。コーヒーのしみと何ら変わりない道具となり果てた。
あの時の恋のメールは跡形もなく消え、いたずらに正確な時間だけを刻んでいる。
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