預言者/Anonymous
ほら、彼女の手が一塊の氷をつかんだ。
僕はその映像に
彼女の目を口を
彼女のすべてを
感じないわけにはいかなかった。
僕はその映像が
網膜と通り、血液が循環するように
毛細血管
末梢神経まで
巡り行くのを
感じないわけにはいかなかった。
それは自分の鼓動と見紛うかのような
命の心音だった。
彼女の手に
炎はいつもの情熱と欲望を焚き付けようと
してみたけれど
それがどんなに野蛮なのか思い知り
雨が降り、その猛りを沈めてくれるのを待ちわびた。
彼女の手と
風はいつもの颯爽とした優美さで
いつまでも戯れていたいと試みたけれど
その刹那のまぐわいでは
切なすぎると風吹くのを止めてしまった。
僕はそんなエレメンツの亡がらを尻目に
彼女の手を取った。
僕はそのとき初めて知った。
本当の欲望を
僕らの脳や
僕らの身体は
満たす術を持たないということを。
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