午後八時に鳴る電話/kauzak
 
キーボードの手を止めて
受話器を上げる

懐かしい声が僕に呼びかける
同じ社宅に住んでいた近所の小母さん

親父にきた年賀状の返礼に
僕が出した寒中見舞いを見て
驚いて電話をしてきたらしい

 お父さんが亡くなったって書いてあってビックリして
 お母さんの具合はどうなの?
 お子さんはいくつなの?
 弟さんは九州なんでしょう?

矢継ぎ早に出される質問に答えていると
懐かしい気持ちと寂しい気持ちが
湧き上がってきて

それは僕が淡々と答える境遇に
小母さんが涙ぐんだ声を上げている
ように聞こえたからでもあって

けれど寄せた波が引くように

埼玉に住んでいるのなら
また電話するわよ

多分果たされることのない約束をして

小母さんは電話を切った

まるで架かってきた電話そのものが霧散するように
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