優しいね、おそば/サトタロ
 
出待ちする老若男女ファンは
どんぶりと箸を持っていて
どんぶりには伸びきったそばが入っていた
この伸びきったそばを このそばを
あなたに届け 届けたい
昂っている彼らは即興で唄い踊り
その間もそばは汁気を吸い続け
肥えたミミズぐらいまで膨れていた
四十二歳のファン歴僅か三ヶ月という独身女性
はたと気が付きしばらく姿を消すと
カセット式ガスコンロを手に戻ってきた
伸びきっているのは良いけれど
冷えきったそばでは可哀想だわ
そういってどんぶりを直火に晒し始めた
伸びているのに温かいそば
彼女の行き届いた心遣いに
古参のファンも唸った
ガスコンロの火は
ごとくの上のどんぶりを優しく包み込んでいた

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