隣人/霜天
誰も知らない人が隣に住んでいる
もう十日になる、声を聞かないし聞こうとも、しない
私は猫を裏返しにしながら、誰か、がいない遠くのことを思う
もう、春だ
冬はかたちになってしまうから、駄目だ
もう春なのだ、と言い聞かせる
私は必要なのでしょうか
そう問われれば、どう答えるだろう
隣人は話さない、かたち、になってないのかもしれない
不必要なものほど擦寄ってくるものだ、と
呟いてくれた母は今日も、雑草と睨み合いをしているのだろうか
かたち、には拘らない
遠くのことを見ていたい
母も、同じ目をしているのだろうか
水が低いところへ引かれていくように
私がどこかへ溜ま
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