おといれ/小川 葉
先生おトイレにいってきます
そう言って
だれもいない廊下を歩いていた
ある教室の前で
あれは冬だったのか
夏だったのか
さだかではないけれども
とにかく寒く
暑かったかもしれない廊下で
わたしはぴたりと
立ち止まり
ある教室からもれてくる
ある女の子の
いい声の
朗読を聞いていた
猫はクルマに轢かれました
一人暮らしの男は
猫がいちまいの紙みたいになるまで
ほうっておきました
男は一人暮らしではありませんでした
その紙みたいな猫と
二人だけで暮らしていたのです
わたしはもっと
聞いていたかったけれど
おしっこががまんできないので
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