クジラと世界の親和性/Anonymous
コーヒーの乾いたカスがこびりつく
カップに何度目かのコーヒーを注ぐ。
知ってるさ
そうやって層をなすコーヒーは
疲労の蓄積と同じくなかなか落ちないということなんて。
鳶が
窓の空を旋回している。
収穫の終わった田圃には
役目を果たした赤い服着た案山子が
報酬ももらわずにたちつくしている。
季節はずれの格好だが
かつての鮮烈な赤色のその褪せ方が時と太陽との交渉を
さりげなく赤裸々に語っている。
ソーサーに横たわるスプーンは鈍色にぬらめき、
そのなかをクジラが漂っている。
一度だけあの丘に登ったことがある。
その先には海がある。
なにを期待した
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