月面帰省/サトタロ
 
管制塔の制止を無視して月面に降り立った艦長以下五名は
サムがこっそりと持ち込んでいたB5サイズのオムレツの舟に颯爽と乗り込んだ
地球の約六分の一しかない重力のおかげで
オムレツはふわふわとろとろの状態を維持できていた
彼らはアルダシール山を目指していた
アルダシール山の頂上には慎ましい小屋があって
その小屋には副艦長イザベラの両親が住んでおり
イザベラの母はポテトパイを用意してくれているはずで
一行はそれを想像して舌なめずりした
「私のママが作るポテトパイは最高なんだから」
遺言のようにそう繰り返していたイザベラも艦長の情婦で
最期はオムレツに包まれていた
舵が壊れているので
舟は巨大な円を描いて同じところを回っているだけだった

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