ある渓流の淵にて/北村 守通
 
困ったことだった
一張羅をまとった毛ばりが
根掛かって外れない
偶然授かった
二本目の無い
大事な
大事な
毛ばりだったので
そんなに深くはなかったので
暑かったので
誰も見ていなかったので
潜って取りに行った

さかな達のいない世界で
一人ぼっちの毛ばり
泣いていた
泣きじゃくっていたから
頭をなで
左手の中に優しく包んで
一緒に帰ることにした

水面に
幾つか拡がる
輪っかがあった
何かしらの
水生昆虫たちの
ハッチだったが
それを邪魔するものは居なかった
それは
天と天との境界だった

その狭間に達しようとしたとき
私は自由を
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