light the light/小川 葉
バスが終点に近づくと
乗客はわたしたち家族以外に
誰一人いなかった
息子が車内をみまわして
どうしてみんな座らないの、と
終点に着くまで
そんな不思議なことを
言い続けていた
誰もいない車内に
あたかもたくさんの乗客が
立ったまま席に座らず
そこにいるのが見えているような
おかしな言葉を
四歳の子供は平気に口にする
街で用を済ませて
私たち家族は
帰りは電車に乗って帰った
終着駅が近づいて
わたしたちが暮らす街が
窓の外に見えてくると
息子がこんどは
ぼくらが暮らしていた街だ
と言う
まるでわたしたちが
もうこの世界にはいないよ
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