鴎の卵/小川 葉
もうひとりのわたしが
東京に行く
というので
わたしは新幹線に乗せるため
仙台駅にいた
東京は
日々よせてくる波のように
この街を少しずつ変えていて
ホームの電光掲示板も
いつのまにか
東京駅と
同じ色に変わっていた
おなかに大切そうに
しろい卵をかかえながら
指定席にすわる
鴎になったわたしが
小さく頷いて
新幹線は夜の東京へ
旅立っていった
翼があるのに
新幹線で行く必要など
なかったけれど
卵をかかえながら飛ぶのは
困難だから
それに
東京で暮らすには
たくさんの卵がなければ
たいへんだと誰かから聞いたから
わたしは
もうひとりのわたしを
新幹線に乗せて
見送った
どんな暮らしをするのだろう
東京で
鴎だからまず
海へむかうのだろう
そうしてもうひとりのわたしは
わたしの知らないように
生きてゆくのだろう
人間になって
仙台という街で生きている
もうひとりの
わたしのように
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