思いについての断片/
 
り着く時刻を計算している






「声のない」

灰の中にある言葉を
手探りで見つけ出そうとして
男はいくつもの声を聞きのがした
それは男に向けられた言葉であり
同時に何かしらの思いであったが
男は自分の言葉を探すことしか考えられなかった

最後に見つかったのは
刷りきれて消えかけた欠片のようなものだったが
男はそれを丁寧に拾い集め
長い長い間じっと見つめていた

やがて男は
静かに首を振って立ち上がると
ゆっくりと確かめるように
歌を歌い始めた


その歌に声はなかった


言葉と旋律だけがただ静かに周囲を包みこんで行った
それは遠く近く
誰のもとでもない場所に腰を下ろし
何も主張することなく響き渡った

どこまでも白く響く 声のない歌だった


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