思いについての断片/健
り着く時刻を計算している
「声のない」
灰の中にある言葉を
手探りで見つけ出そうとして
男はいくつもの声を聞きのがした
それは男に向けられた言葉であり
同時に何かしらの思いであったが
男は自分の言葉を探すことしか考えられなかった
最後に見つかったのは
刷りきれて消えかけた欠片のようなものだったが
男はそれを丁寧に拾い集め
長い長い間じっと見つめていた
やがて男は
静かに首を振って立ち上がると
ゆっくりと確かめるように
歌を歌い始めた
その歌に声はなかった
言葉と旋律だけがただ静かに周囲を包みこんで行った
それは遠く近く
誰のもとでもない場所に腰を下ろし
何も主張することなく響き渡った
どこまでも白く響く 声のない歌だった
戻る 編 削 Point(3)