思いについての断片/
 
「手紙」

見渡す限りの誰もがのどが渇いていて
水!水!と叫びながら歩いているのに
誰にも耳が付いていないので
互いにそれに気づいていない

伝わることの無い声は
束になって風を起こしていて
歩道を冷たく染めながら
海の向こうへと運ばれていく

浜辺には 
海水を飲みながら暮らしている
耳の付いた人たちがいて
日が暮れる頃に届く風の音を聴き
一日一回の混声合唱を始める

夜になって
見渡す限りに人がいなくなった頃
それはつまり
帰り着いた誰もが
ゆっくりと水を飲み干し
誰にも気づかれないように
そっと耳を取り付ける時間に
その歌は街へと流れ着き

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