あのころ/きりはらいをり
 
忘れかけていたもの
胸の奥の底から
ある日。

大好きだった歌――もう聴かないけれど
その尻尾につながって出てくる
帰れない場所
懐かしい夕暮れ
音 におい
会えないひとたち

現在(いま)とは違うリズムで
廻ってた時計の針

嬉しい 怖い
やさしい つらい
おもいだすって どんなきもち?

この部屋のどこを捜しても
地球の果てまで旅しても
私が愛したあのころは
もう どこにもない

戻れないことを
嘆く代わりに
ただ 進むだけ

そうしてやがて
過去になってゆく今を
あのころと同じに
愛せるように
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