花嫁のうた/オイタル
 
霜が降りた
歩道の黒い縁石に
雲まで忍び寄る電柱の背中に
今朝のしるしが重なる

雲ひとつない冬空の下を
花嫁が歩いていく
黒地に赤い花を揺らして
うなじに笑顔の雫を落として
半月前に妻を亡くした公民館長の家の陰
冷たく白いキャベツ畑を
サクサクと踏んでいく

陽は
これから一日をかけて
山々のいただきに沿ってゆっくり流れ
それから時のあわいに沈んでゆくわけだが

林に向かって
ひとあしごとに
歩みを崩していく冬の日
ご結婚おめでとう

 *  *  *

花嫁が改札から姿を消す
風をはらんで膨らむ紫のウエディングドレス
右手に引きずるトランク
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