駆ける少年/鈴沖 雄太
 
腐葉土の匂いを吸い込んでくすぐったそうに走る少年の汗に濡れた慎み深い爪先は自分の重みがたしかに土を撒き上げてしまうことを恥らっているのか二三歩踏み出すごとにきゅっと小さな親指を丸め込むので伸ばしっぱなしの爪が少年の柔らかな足の裏に食い込んでしまいそうなくらいといっても実際に食い込むはずはないのだけれどほんとうにくいこんでいるのじゃあないかというくらいあしのうらがじんじんいたくなったからいちどたちどまっておかあさんがきょねんのたんじょうびにかってくれたあおいランニングシューズ(ほんとうのことをいうと、ぼくにはもうちいさすぎたんだ)をぬいでみようかともおもったんだけどやっぱりとまるのはやめてはしりつづけることにしたんだと少年は玄関を突き破るようにして勢い良く帰るなりワイシャツにスチームアイロンを当てながらTVを見るともなしに見ていたお母さんの膝に泥だらけの頬を擦りつけてそのまま眠ってしまった



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