物語/小川 葉
 

すべてが本当のことになる
疑いのない事実になりえるのだと
信じて疑わない

けれども僕は
あれから二十年
とその老人に比べたら
少ないばかりの人生を語りだし
まるで僕ではないように語る
もう一人の自分がいる

いわんや五十年
いろいろのものが脚色されていて
けれども僕は
その老人の真実を知らないので
そうであると思うしかない
そんな世界に今
僕等も生きているのだと思う
 
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