物語/小川 葉
 
 
あれから五十年
と語りだす
老人の話を聞いてると
なぜだかとても
うらやましい気がした

話はみな
そうであると思うしかなくて
そうであるように
僕のこれからの年月も
そのようなものであるのかと
思えばなおのこと

僕はまだ
五十年を生きていない
それなのに
この老人には
五十年という年月を
これから費やしていくために
費やしてきた年月さえ
少なからずもあったのだ
少年時代という名の

誰もが過ごしてきた
その場所に
立ち止まることができたとしても
やがて戻ることのできない
場所になってゆく

僕は老人の話を聞く
言葉にすれば

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