人魚・終 〜開放〜   【小説】/北村 守通
 
 コーヒーのおかわりをきっかけに、小休止することにした。私達が始めたのは、とりとめのない世間話であったり、身の上話であった。蝋燭は、相変わらず影を持たずして揺れていたが、それは極めて自然なことに思えたので、特に話を戻すということはしなかった。

 楽しい時間が過ぎていった。

 少なくともそれは私にとってであったが、彼女にとってもそうであることを願った。
「そういえば」
まだ若干余韻を引きずっている笑いを落ち着かせながら、彼女が始めた。
「この辺りにはね、人魚にまつわる幾つかのお話が伝わっているの。」
 あまり、いや正確にはまったく、耳にしたことがないことを正直に打ち明けた。

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