人魚・3 〜対話〜 【小説】/北村 守通
「見えるのね。」
返答することに戸惑い、躊躇する私を見て、彼女は自分の得ようとしている答えを得ることができた様だった。同時に私も一つの情報を得ることができた。
私の足元に存在し、燃焼し、発光しているそれは、私以外の第三者にも視覚による認識が可能な物質であるということ。つまり、私の視神経が捉えた映像が、決して錯覚ではないという結論に近づいている、という認識である。しかし、それにしては彼女の発言は不可解だった。その答えは、たぶん彼女しか知らなかった。潮のせいではなく、ぐっしょりと湿った背中が、空気が動き始めたことを察知した。時は動き始めたが、私たちは動くことができないでいた。否、動けなかっ
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