人魚・2 〜蝋燭〜 【小説】/北村 守通
嵐はまだ訪れてはいなかったが、それは時間の問題であるように思われた。一度風が吹き始めれば、それが合図となって世界が歪み始めるはずである。やはり確証無き確信に過ぎないことではあった。ただ、じきに遭遇するであろう風の気配というべき空気の淀みは感じていた。タイムリミットはもうすぐだった。いい加減諦めるべきなのであろうが、ぎりぎりまで彼女を待つことにした。筋違いな話であるということは十分認識していたが、私は自分の心の中に苛立ちが芽生え始めているのを覚えた。
何に対して?
あの日の不用意な一言を放ってしまった自分自身に対してか、それともこの裏付けの無い試みに成功したとし、彼女と再会できたとして、一
[次のページ]
戻る 編 削 Point(2)